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2005年 9/3
コジマ・コンサートマネジメント アムステルダム&ベルリンレポート

湯浅卓雄とスコットランドの若き音楽家たちの疾風怒涛の夏
〜コンセルトヘボウは熱狂的な
スタンディング・オヴェイションで最高潮に!〜
 
毎年7月・8月には、ヨーロッパの大都市ではオペラハウスやオーケストラの定期公演は行われていない。代わって地方で行われる音楽祭が音楽シーンの中心となる。
もっとも、大都市でもロンドンのBBCプロムスのような音楽祭もあるにはあるが、これはむしろ珍しい部類だろう。
では、大都市では全くコンサートが開かれないのか?というと最近はそういうわけでもないらしい。アムステルダム・コンセルトヘボウやベルリン・コンツェルトハウス(旧 シャウシュピールハウス)では、この時期 Pre-Professional Orchestra つまり音楽学生や若いプロ・プレイヤーたちによる、ユース・オーケストラ(ユーゲント・オーケストラ)が次々と登場するシリーズが開催されており、非常な盛況を呈している。
しかも毎夏、コンセルトヘボウのような世界的なコンサートホールに登場する『ユース・オーケストラ』は相当高度な技量を有したオーケストラばかりである。
 
     
コンセルトヘボウ
         
もちろん、それはプロ・オーケストラより長期間(1週間ぐらい)のトレーニングを経ての結果であるから、1日〜3日ぐらいのリハーサルで公演を行うプロ・オーケストラと全く同列には比較はできないのだが、聴衆にとっては最終的に提示される演奏レヴェルこそが全てなのだから、これではプロにとっても手強い存在である。
もっとも優れた技術と若い純粋なエネルギーの爆発が魅力である反面、様々な経験を背景とする『深み』のようなものが不足しがちなことは否めないが、そこは指揮者の腕のみせどころでもある。 実際彼らが迎える指揮者は皆、第一級の優れた指揮者ばかりであり、マエストロたちもこの若いエネルギーとの共演を喜びにしているようである。
かつて、カラヤンが指揮したことでも名高いECユース・オーケストラ(現在はEuropean Union Youth Orchestra)は今夏、ベルナルト・ハイティンク(ベルリン・フィル名誉会員、ボストン交響楽団名誉指揮者、ロイヤル・コンセルトヘボウ桂冠指揮者)やジョン・エリオット・ガーディナーが指揮して、ヨーロッパの主要都市を楽旅しているし、クラウディオ・アバドがウィーンを拠点にグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラを組織したことは広く知られている。イスラエル国籍のダニエル・バレンボイムは彼の地の若い音楽家によるオーケストラを率いて、各国でツアーを行っている。
オランダのユース・オーケストラはこの夏、イヴァン・フィッシャーの指揮とピーター・ドノホーのピアノでコンセルトヘボウに登場しているし、ナショナル・オーケストラ・オブ・グレートブリテンは尾高忠明の指揮でBBCプロムスに登場している。
ところで、イギリスにはもう一つ、特筆すべきユース・オーケストラが存在する。
The National Youth Orchestra of Scotland (NYOS)
世界的パーカッション奏者 エヴァリン・グレニーなど、数多くの優れた音楽家を『卒業生』として輩出しているこの団体は年齢構成が少し若く、12歳〜21歳だが、優れた運営・指導スタッフに支えられたこのオーケストラの幅広い活動と演奏能力の高さには正直驚かされる。
今年のNYOSの夏のコンサート・ツアー(グラスゴー〜バーミンガム〜アムステルダム〜ベルリン)の指揮者には 湯浅卓雄が迎えられた。
湯浅はこれまでにもこのオーケストラを指揮して、マーラー:交響曲第5番、ウォルトン:交響曲第1番、ラヴェル:ダフニスとクロエなどを演奏しており、ラヴェルの演奏はCDとしてもリリースされている。
         
   
  コンツェルトハウス  
         
今回のプログラムは
Anna Meredith : Wound Up (委嘱作品/世界初演=ベルリン公演のみ)
グリンカ:『ルスランとリュドミラ』序曲
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85 (チェロ独奏:Quirine Viersen)
ショスタコーヴィチ:交響曲 第10番 ホ短調 op.93
複雑な現代作品における卓越した処理能力は彼らが音楽家としてすでに高い基礎力を持ち合わせていることを証明していたし、グリンカにおける俊敏な機能性と劇的なエネルギー(時折、その勢いは有り余るほどであったが)は圧倒的で、エルガーにおける豊かな表情をもった深い情感にも聴衆は深い共感を得ていた様子であった。
(ソリストがいささか奔放にすぎたが彼らはそれを見事にフォローした)
しかし、SOLD OUT となった公演での満員の聴衆にとってのクライマックスはショスタコーヴィチの傑作 第10交響曲における圧倒的な演奏であった。
まず、特筆すべきことはこの作品において随所に登場する管楽器のソロがいずれも素晴らしい名演奏だったことである。彼等一人一人がすでに充分高度な技量を身につけていることが改めて披露される瞬間であった。
25分近くにも及ぶスケールの大きなソナタ形式による第1楽章は終始強い緊張感を持続した見事なもので、殊更この楽章の終結部の消え入るような美しさには真に感心させられた。スターリンの圧政を象徴するかのような恐怖の第2楽章の疾風怒濤の形相は、とても自由で穏やかなスコティッシュのティーンエイジャーによるものとは思えない迫真性に満ち溢れていた。3楽章での美しい叙情、そして終楽章での狂喜の大爆発に至るまで、彼等の演奏は満場の聴衆を強い緊張と深い共感で捕らえて離さなかった。
アムステルダムでもベルリンでも彼等は満場の聴衆から多大な称賛を得ていたが、『聴衆の行動』という点では、お国柄なのかアムステルダムの方がより直接的で開放的であった。
何しろ、最後のシンフォニーが終わると程なく、ほとんど全ての聴衆がスタンディング・オヴェイションをしてしまったのである。
その点、ベルリンの人たちも熱狂的な喝采は送ってはいたが、総立ちというわけには行かなかった。 何しろ 旧東ベルリンのコンツェルトハウスは、いかにも『共産党の会議場』のような、堅苦しい雰囲気を持った会場でもあったので、そういうことも少し影響したのかもしれない。(この会場でショスタコーヴィチを聴くことの迫真感はちょっとコンセルトヘボウでは得られない身につまされるものがある)
いずれにしても、湯浅卓雄がNYOSのメンバーを力強く誘導してゆく様に聴衆の誰もが強い感心を示したようで、ひときわ大きな称賛が与えられていた。
ツアーの最終日となった、ベルリン公演の後、在ドイツ英国大使は全ての出演者やスタッフ及び公演関係者をベルリン遷都後に旧東ベルリン地域に新築された英国大使館のとてもモダンで開放的なレセプションルームに招いた。
宴もたけなわとなった頃、全てが終わって開放感と達成感に満ち溢れたNYOSのメンバーは遂に『本場のフォークダンス』を始めてしまった。
本場モノは日本の盆踊りモードのダンスのように生優しいものではなくかなり激しいのだが、何とそこに7月に56歳を迎え、ますますハードスケジュール続行中のマエストロ湯浅も誘われて一緒に興じ始めてしまったのにはいささか恐れ入った。
元気なマエストロである。
因みに、この数日後 NYOS事務局から湯浅卓雄のもとに、丁重な御礼状と共に
何と2009年!のNYOS夏公演への出演依頼が届いた。
2009年の夏、指揮者 湯浅卓雄は60歳となる。 指揮者としては『いよいよこれから!』という楽しみな年齢である。
(Y.K.)

湯浅卓雄(指揮) スコットランド・ナショナル・ユース・オーケストラ 2005
 8月 5日  グラスゴー・ロイヤル・コンサートホール
 8月 6日  バーミンガム・シンフォニーホール
 8月 8日  アムステルダム・コンセルトヘボウ
 8月10日  ベルリン・コンツェルトハウス

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