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「漆原 朝子のブラームス」
〜ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 完全全曲演奏会 (CD評)


レコード芸術 2005年8月号 新譜月評 室内楽曲 推薦盤(平野 昭)

 2004年6月3日に神戸新聞松方ホールで行われた演奏会ライヴ録音で漆原朝子とベリー・スナイダーのデュオがすばらしいブラームスを聴かせてくれる。両者はすでにこの2年間にシューマンのヴァイオリン・ソナタ全曲を同ホールで演奏しており、アンサンブルの呼吸の一致、互いの音楽観、作品解釈など曲作りのコンセプトは熟知しあっているのだろう。そうしたことがこの演奏からはっきり聴き取れる。注目されのは漆原のヴァイオリンが非常に洗練を増しているということだ。彼女の技巧の確かさはいまさら説明するまでもないが、ここで言いたいのは音楽表情の作り方、作品に対する共感度といった表現性での大きな成長だ。いつまでも若いと思っていた漆原が本当に落着いた大人の音楽家となり、ブラームスの作品に対して心の奥深いところからの共感を示し、それを全く誇張するような表現法を取らずに見事に表現している。そして緩徐楽章の響きの豊かさが光る。第1番でピアノの深ぶかとした序奏に導かれて加わるヴァイオリンのしっとりとした美しさと大きく高揚する中間部以降でのエネルギーを蓄えた鋭い音、そして、重音奏による朗々とした歌いまわしなどに漆原の洗練された感性が滲み出ている。同じ第2楽章でも第2番のように緩急が激しく入れ替わる音楽では構成上のコントラストにしっかりとした意味づけをして楽章をまとめる。
 このアルバムで最も光彩を放つのは第3番のニ短調ソナタだ。ピアノのスナイダーとのアンサンブルにおいてもこの作品が最も大きなスケールを感じさせる。比較的中高音域に主題が置かれた第1楽章では漆原のヴァイオリンが伸びのある艶やかな音色を存分に発揮してしなやかに主題が歌われる。ゆったりしたアダージョ楽章を落着きのある平穏な響きでまとめ、ウン・ポコ・プレストによる短い第3楽章ではエキセントリックなテンポをとらず、むしろセンティメントと指示された楽章内容をしっかりと表現する。そして、プレスト・アジタートのフィナーレで両者のアンサンブルが白熱した高揚をみせるが、その一方で楽曲構成中に織り込まれた緩徐な楽段では落ち着きを取り戻すというメリハリのある終楽章を作っている。それにしても終結部に向かっての最後の大きな高揚は堂々たる風格を伴っており圧倒的だ。
〈平野 昭〉



盤鬼、クラシック100盤勝負! (平林 直哉/青弓社

 前作のシューマンの『ソナタ』では、何か吹っ切れたような落ち着きや円熟味を感じさせた漆原だが、このブラームスはいっそう手中に収まった出来栄えで、おそらくは彼女のベスト演奏となりうるだろう。『第一番』はゆったりと始まる。このゆったり加減も間延びしたそれではなく、本当に自然に、大きく呼吸して出てきていて、非常に心地いい。第二楽章の、心の凪とも呼べるような味わいもまた格別である。途中に挟まれた『スケルツォ』も弾力と潤いに満ちていて、中間部分での優しい歌心も聴き手をなごませてくれる。『第三番』の第四楽章では珍しく気分が高潮するが、浮き足立ったり汚れたりすることはなく、ある種のゆとりさえ感じる。ピアノのスナイダーも見事。粒立ちのきれいな音で、有機的にヴァイオリンと絡み合っている。
 二〇〇四年六月、神戸でのライヴ収録で、各楽器は生は生々しくとらえられていて、かつ臨場感も非常に豊か。音色もみずみずしい。言うまでもないが、SACDの方がいっそう響きに余裕がある。




音楽現代 9月号 室内楽・器楽曲 推薦盤(佐藤 康則)

【推薦】シューマンのソナタ全3曲のライブ録音で注目を集めた漆原朝子が、今度はブラームスのソナタ全3曲のコンサートライヴをリリースした。シューマンもしっかりとしたテクニックに裏打ちされた情感豊かな優れた演奏だったが、今回のブラームスもゆったりとしたテンポに乗って、目一杯にロマンの世界を歌い切った熱演である。部分部分では思い入れの激しい作品への共感を表出しながらも、曲全体を一つの大きなまとまりとして捉える造形の確かさを合わせ持つ、極めて水準の高い演奏である。しかもその歌ごころは肌目の細かな日本的な抒情をたたえており、その国際的なキャリアにもかかわらず、日本の美意識を巧まずして表現できる恵まれた才能の持主だと言えるだろう。ピアノのスナイダーも、時として感情を制御しきれず表現過多になる部分はあるものの、きらびやかな音色の変化と繊細なタッチを駆使して漆原のよく歌うヴァイオリンを好サポートしている。



「漆原 朝子のブラームス」
〜ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 完全全曲演奏会 (演奏会評)
(2004年6月3日 神戸新聞松方ホール)

日本経済新聞 平成16年6月14日(月)夕刊(音楽評論家 小石 忠男)


 一昨年、シューマンのソナタ全曲で好評を博した漆原朝子が、今回はブラームス「ヴァイオリン・ソナタ全曲」に挑戦(3日、神戸新聞松方ホール)した。ピアノは前回と同じベリー・スナイダー。ソナタ3曲と「スケルツォ」を弾いたが、各作品の特色を鮮明に弾き分け、前回よりもさらに強い感銘をあたえた。
 技術的にも一段と洗練され、ヴァイオリンは四弦のみごとに揃った音が美しい。しかも第一番ではゆとりのあるテンポをとり、清潔・平明な音楽を歌った。
 ピアノもまったく虚飾のない音と表情で、柔軟な弦と対話したが、たとえば第一楽章の終結部では二人ともに加熱し、引き締まった造形の説得力が凄い。第二楽章の重音も朗々と歌い、音楽的な器量が大きい。
 第二番は3曲中もっとも明朗な曲趣だが、ゆれるリズムがこまやかなニュアンスをあらわし、そのため第二楽章の甘美な旋律線は、もう魅力的としかいいようがない。青春の叙情を回想させる至福の時である。途中の急速な部分では、さらに切れのよさが欲しいが、終楽章とのバランスはよい。
 休憩後は、まず「F・A・Eソナタのスケルツォ」が演奏された。はつらつとした音楽である。しかし、それよりも最後の第三番が当夜の圧巻となった。
 ヴィブラートの処理も巧妙で、全体の構築にスケールの大きいドラマが現された。二人の演奏者息づまるような緊張と情熱の燃焼も、聴き手を離さない。とくに後半の二つの楽章の的確な高揚と、旋律の意味深さは感動的である。
 漆原はブラームスの複雑で晦渋な趣を直感的にとらえ、一挺の楽器とは思えぬ交響的な響きで、その神髄に迫った。音構造も明快に整理されていたが、いま彼女は自信にみちた境地に到達したようである。

新聞画像



音楽評論家 出谷 啓氏 批評(同氏ホームページより転載)

  一昨年のシューマンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏に続いて、ブラームスのヴァイオリンとピアノのための作品、完全全曲演奏会という意欲的な企画である。前半にソナタ第1番「雨の歌」と第2番、後半が「FAEソナタ」のスケルツォと第3番というラインナップで、ピアノはアメリカの中堅バリー・スナイダー。
 目を閉じて聴いていると、とてもうら若い女性ヴァイオリニストの演奏とは思えない、完成度の高い室内楽演奏になっていた。お互いの音を聴き合い、しかも決して自己をスポイルさせることなく、十分に音楽的な主張もするという、理想に近いインタープレイが聴かれた。漆原はテクニックに恵まれながら、それを誇示するのでもなく、また美しい音色を持ちながら、誇らかにうたうというのでもなく、ひたすらブラームスの作品に奉仕するのに徹していた。勿論スナイダーのピアノも、同じコンセプトにしたがったもので、メロウな音色を大切にした美しい限りの演奏を聴かせた。
 つまり両者は強力なセルフコントロールによって、ともにブラームスの世界を描き上げたといえる。中では第3番が最も充実した表現になっていたが、それは力の配分を考えて、第1、第2番では肩の力を抜いたからだろう。結果として淡々とした表現の第1、第2番と、情熱に溢れた第3番という、絶妙のコントラストを描くことにもなった。技巧的にも感覚的にも、極めて優れた演奏でありながら、それが突出することなく、作品への奉仕という形であらわれた、稀なユニットというべきであろう。したがって聴き手は漆原とスナイダーの共演を聴いたというよりは、ブラームスの音楽を聴いたという実感の方が、より強く持たされることになる。こうした内容の演奏会は、めったにあるものではないだろう。(6月3日・神戸新聞松方ホール)



音楽の友8月号 音楽評論家 中村 孝義

 これほどすがすがしく内的充実に満ちた演奏会に出会えることも、そうあるものではない。ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲をメインにした重いプログラムなのに、もたれるどころか瞬く間に時が過ぎる。その要因の第一は、漆原朝子の奏でる類稀な美しい音色と知情意のバランスの取れた表現。それにパートナーを務めたスナイダーも特筆すべき出来。出るべきところは出るが、決してヴァイオリンを覆い隠さず、作品の細部までを見極めた当意即妙さは、まさにこれぞ室内楽。条件が整えば、音楽はかくも見事に輝きを発するのだ。
 第1番では、漆原にまだ十全に自らのすべてを聞き切れないもどかしさが感じられたが、第2番ではそれも払拭。静謐感を湛えたこの曲からも豊かな起伏に満ちた劇的世界が浮かびあがった。後半になると両者の掛け合いはさらに密度を増し、スケルツァなど本当にスリリング。第3番もこの作品の劇的情感が何のてらいもなく表出され圧巻。いつまでもこの世界に浸っていたいという思いに駆られた素晴らしい一夜であった。(6月3日神戸新聞松方ホール)


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