皆さま、こんにちは、今峰由香です。

　今年2020年、クラシック音楽界はベートーヴェンの生誕250年で賑わうはずでした。
　これらの演奏会を企画している時、いったい誰がこのような大変な年になると考えたでしょうか。
　私が住んでいるヨーロッパ、ドイツでもコロナ感染状況は日本と桁違いで大変な状況で、
　春のロックダウンに続いて11月からは2度目のロックダウンに入り、
　演奏会はすべて延期か中止となり、音楽家にとっても厳しい状況が続いております。
　そんな中、今回の12月のベートーヴェンの250歳のお誕生日を記念と題したリサイタルが、
　実際日本で実現できるのか、本当にに帰国できるのかずっと不安な日々を過ごしてまいりましたが、
　先日無事帰国し、大阪の実家で待機生活に入っております。

　今回のプログラムはベートーヴェンの最後の3つのソナタということで、
　私にとっては大きな試練でもあります。奇しくもこれらのソナタが作曲した時の
　ベートーヴェンと同じくらいの年齢の私が、このプログラムに挑戦することに恐れも感じ、
　突き詰めてもずっと手の届かない偉大さに焦心苦慮することも…。

　ベートーヴェンは、苦難を強いられた人生の中で、自分の芸術は不幸な境遇にいる人々を
　救うものでなくてはならない、と、神から与えられた自らの力を信じ、
　精神の力ではチャレンジし続けた作曲家でした。
　この最後の3つのピアノソナタには、優しさ、悲哀、慈しみ、愛、勇気、希望、絶望、
　苦難と戦う志、祈り、感謝の心、といった、天才でなくとも、私たちの人生で経験するような
　人間の感情、心情がベートーヴェンという常に革新を追求し続けた孤高の天才の手によって、
　芸術の極みで表現されていると思います。信じられないのは、彼はその音をすべて
　実際に聞くことはできず、魂の耳で聞いていたということです。

　このような大変な時期ですが、12月16日、250年前に生まれたベートーヴェンの魂の声に、
　皆様と一緒に想いを馳せることができれば、と願っております。

　2020年11月30日 今峰由香

今峰由香