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交響曲全集

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大木 正夫



 
湯浅 卓雄 CDレヴュー
日本作曲家選輯
山田耕筰
     
 
長唄交響曲「鶴亀」
交響曲「明治頌歌」
舞踊交響曲「マグダラのマリア」

湯浅卓雄(指揮)
東音宮田哲男(長唄)
東音味見亨(三味線)
長唄東音会
東京都交響楽団

ナクソス 8.557971J オープン価格


NAXOS ナクソス(オンライン・ショップ)

 

レコード芸術 '07 1月号 新譜月評 交響曲 特選盤(小石忠男、宇野功芳)

小石忠男
【推薦】山田耕筰の交響曲は、かつて《かちどきと平和》を本欄で採り上げたが、今回は異色作「長唄交響曲《鶴亀》」が印象的な聴きものである。1934年作曲だが、当時の風潮を反映して、邦楽と洋楽をみごとに融合させた作品で、驚くほど大胆な試みではあるが、もはや実験の域を抜け出している。
 片山杜秀氏の解説は非常な力作で、詳細をきわめた内容である。これは山田耕筰の文献として第一級のものといえるので、それを参照して欲しいが、曲は長唄「鶴亀」をそのまま用い、それに対位法的に協奏する2管編成のオーケストラを付加したものである。
 全体は実に巧妙につくられている。演奏は人間国宝の東音宮田哲男(長唄)と東音味見亨(三味線)それに長唄東音会が参加しており、彼らと湯浅卓雄指揮東京都交響楽団の共演は、練りに練られた演奏を聴かせる。だれにも曲の全貌が理解できる好演である。これを聴けば山田耕筰の多彩な才能に改めて驚嘆するに違いない。
 2曲目の「交響曲《明治頌歌》」は1921年の作品。解説によると実質的には交響詩だが、幕末維新期から明治時代の文明開化とその反動に揺れるありさまを順次描いている。こうした手法は耕筰の作風によく合致しているが、聴き手はここにR.シュトラウスの影響などを感得するに違いない。またアジアの伝統楽器を用いているのも、史上初めてのことである。耕筰はこれをベルリン、ロンドン、モスクワなどで演奏した。ベルリン・フィルとの自作自演盤もある。
 最後の「舞踊交響曲《マグダラのマリア》」も立派な作品である。こちらのほうは作曲者指揮ニューヨーク・フィルによってアメリカで初演されたが、解説にはこの曲のプロットをくわしく記述した片山氏の文章がある。推察ではあるが、これも説得力が強い。演奏はすべてのバランスが良好で、きわめてロマンティックな内容が活写されている。もっとも舞踊を伴ってこそ、はじめて完成される作品という見方もできるが、音楽だけでも結構おもしろい。
 しかもこの曲と限らず、いつもながら湯浅の見通しのよい解釈と表現が魅力的である。これは現時点におけるもっとも良心的な企画であり、成功したプロジェクトとして評価したい。

宇野功芳
【推薦】「長唄交響曲《鶴亀》」は1934年、「交響曲《明治頌歌》」は21年、「舞踊交響曲《マグダラのマリア》」は16年の作品。こうして山田耕筰の作品を並べて聴いてみると、彼がいかに日本音楽と西洋音楽の結合と融和に腐心したか、そしてすばらしい成功を収めたかがわかって、おおいに感動した。
 わけても《鶴亀》は原作の長唄をそのまま演奏し、そこにオーケストラをつけたものだが、そのオーケストラが単なる伴奏に終らず、長唄の魅力を引き立てる役割をしている。日本人であるわれわれにはなんとも心誘われる懐かしさがあり、にぎやかな江戸の雰囲気が充満する上、オーケストラ自体もおどろくほど美しいメロディを歌ったりもする。東音宮田哲男の長唄、東音味見亨の三味線はともに圧巻だ。
 《明治頌歌》は鎖国→黒船来襲→文明開化→明治天皇崩御などを描いているが、オーケストレーションの色彩美と、ここでもメロディの魅力に打たされた。《マグダラのマリア》はキリスト受難の折の、マグダラのマリアの心の変化を写し出した山田、若き日の力作で、湯浅卓雄指揮の東京都響の好演が光る。



クラシックジャーナル CDオーケストラ曲 推奨度 ★★(山崎 浩太郎)

 二〇〇五年十月、東京のルネこだいら大ホールでのセッション録音。
 発売されるたびに話題となるナクソスの「日本作曲家選輯」の中でも、その編成の特異さにおいて特に目を引く一枚が登場した。外国人が聴けば、最も日本人らしいと考えるかも知れないものである。
 西洋風のオーケストラに邦楽の長唄、三味線、鼓や笛などの囃子が組み合わさっている。というと琵琶と尺八を独奏楽器にすえた武満徹の《ノヴェンバー・ステップス》みたいだが、そうではない。長唄の名作の一つ《鶴亀》をそのまま演奏しているところに、オーケストラがその伴奏をするというものなのだ。つまり、日本風の「オーケストラ」と西洋風のオーケストラという、二群のオーケストラが重なっている形なのである。
 いつもながらに詳細で見事な片山杜秀氏の解説によると、一九三四年八月に日本放送協会(NHK)のラジオ放送で初演されたこの作品は、同年につくられた《越後獅子》と《吾妻八景》に続く、長唄交響曲の第三番となるものらしい。前二曲も同様の手法によるらしいが、残念ながら楽譜が散逸しており、現在は山田の長唄交響曲といえばこの《鶴亀》を指している。
 こうした手法は山田の独奏ではなかったらしく、かれの後輩であると同時にライバルだった橋本国彦も、三年前の一九三一年(昭和六年)にやはり長唄交響曲を作曲しているという。
 この一枚はこうした昭和初期の −あえて言及すれば満州事変と同時期に− 行われた試みの、現時点で唯一のCDである。
 実際に聴いてみると、なんとも異様な響きだ。西洋のオーケストラへ日本楽器を独奏に加えた協奏曲風のもの、《ノヴェンバー・ステップス》とか、このCDで続けて聴ける、篳篥を加えた山田自身の交響曲《明治頌歌》とかなら、異国情緒やオリエンタリズムの一言で片づけようもあるだろうが、ここでは日本型と西洋型のオーケストラが「鵺(ぬえ)」のように組み合わさって響くのである。
 日本楽器をスパイス的に加える手法は、西洋に日本を「紹介する」という意味を持つだろう。しかし長唄交響曲は、欧米列強の文化技術を日本文化と併存させようとした、国内向けのものだ。昭和初期という時代の精神を端的に象徴すると同時に、「西洋化」とは何かを考えさせる、端緒となる一枚だ。




音楽現代 '07 1月号 推薦(西 耕一)

【推薦】長唄交響曲。これだけで「買い」だろう。選集二枚目の山田耕筰(1886〜1965)。聴き所はもちろん《鶴亀》(1934)。なんと長唄古典曲《鶴亀》に、山田が対位法的な管弦の協奏を添えるという異色の作品。どんな妙な音楽になるかというと、違和感なく聴こえるから不思議。「♪蓬菜山の鶴と亀〜」と唄うに合わせ管弦と三味線が繊細にして絶妙な絡みを聴かせる。お囃子や唄と管弦のバランスも聴きやすい好録音。山田のセンスが光る。海外での評価も楽しみな作品である。《明治頌歌》(1921)は篳篥のソロを伴う交響作品。明治天皇崩御をイメージした部分で管弦楽に加わる篳篥の哀切な旋律と独自の響きが痛切。《マグダラのマリア》(1916)はバレエ曲。上記二曲の個性からするとドイツ留学のエコーがまだ聴こえるが重厚な意欲作。どの作品も山田の地道な音楽研究とその成果が滲み出ている重要作揃い。ともかく聴いて確認して欲しい一枚。




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