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湯浅 卓雄 CDレヴュー
日本作曲家選輯
大木正夫:交響曲 第5番「ヒロシマ」/日本狂詩曲
湯浅卓雄
(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

(Naxos 8.557839J)


NAXOS ナクソス(オンライン・ショップ)

クラシックジャーナル 019 CDオーケストラ曲
推薦度 ★★
 安田 寛

 作曲家のバイオグラフィーは、例によって片山杜秀氏の解説書(今回は少々我田引水が目に付くが)に詳しいが、大木正夫は、日本のプロレタリア音楽運動の第一人者だ。六〇年安保闘争直後の六〇年から六三年にかけて完成された全二部のカンタータ《人間をかえせ》のLPは、その種の音楽としては異例のベストセラーとなり、左翼右翼を問わず、労働組合の事務所には必ずあると言われたほど。六五年の《あの人は帰ってこなかった》とともに、彼の代表作の一つ。六曲の交響曲をはじめ、「主に管弦楽作品の作曲に力を注ぎ/その作風は社会的テーマを管弦楽の多彩な響きで反映しつつ、民謡主題を使うなど独特の響きを作り出した」(「 」内、音楽芸術別冊『日本の作曲20世紀』より引用)。
 大木が既に中堅作曲家として活躍していた三八年初演の《日本狂詩曲》は、これまで彼の代表作とは考えられていなかったが、晩年の作風と比べるまでもなく、早坂文雄や伊福部昭風の、推進力があり非常に明るく大らかなスケルツォ。悲痛な交響曲第5番と聞き比べると、大木の思想的な変化が彼の音楽にどういう影響を与えたかが良く分かり、CDとしてナイスなプロダクションといえる。
 大木のプロレタリア作曲家としての信念は、大資本主義体制下での組織的な大衆洗脳、すなわちマスコミ及び禁煙運動などファッション化した圧力団体の現体制との癒着を背景としたコマーシャリズムとは相容れない。解説書によると、交響曲第五番は、既に海外で「幾度」も演奏されたとあるが、具体的にどこで何回取り上げられたのか興味あるところだ。原爆の悲惨さを伝える丸木夫妻の《原爆の図》に触発されたこの交響曲は、例えるなら、「センプレ・ピアノ(常に静寂に)」と指示された、ドイツ軍の空襲によって瓦礫化した首都ロンドンの情景を描写したと言われるヴォーン・ウィリアムズの交響曲第六番のエピローグに通ずる精神がある。が、大木のレクイエムの精神は、約四十分間クレッシェンドとブレイク(急激な音量の減衰)を繰り返すだけのペテッションの交響曲にも似た不協和的で沈痛、くすんだ響きに支配された特異な交響曲を生んだ。娯楽作ではないが、本盤は最後まで張りつめた緊張感を失わない演奏と、優れた録音で、高い評価に値する一枚である。



レコード芸術 '06 5月号 新譜月評 交響曲(小石忠男)

 【推薦】いまの若い世代は、カンタータ《人間をかえせ》に代表されてきた大木正夫の業績を、もはや知る人が少ないと思うが、わが国の洋楽の胎動期から戦後の1971年まで、地味ながら活動を続けたユニークな作曲家であった。
 彼について語られることは現在ではまれだが、今回の《日本狂詩曲》(1938)と交響曲第5番《ヒロシマ》(1953)の録音は、大木の作風の2つの潮流をとらえたという意味でも、すこぶる貴重な記録といえるだろう。この作曲家の生涯と業績、曲の解説については10ページに及ぶ片山杜秀氏の文章にくわしいが、これは大木正夫について記された文献としても、現在入手可能なもっとも詳細な内容である。わが国の音楽に興味をもたれる方はぜひ読んでいただきたいすばらしい文章である。
 今回録音の2曲は、ともに世界初録音で、《日本狂詩曲》は1937年に作曲され、39年にワインガルトナー賞を受けた。民族的な主張をもった明快な作品である。《ヒロシマ》は全8楽章の大作で、丸木位里と丸木俊夫妻が創作した悲惨きわまりない「原爆の図」連作の音楽化である。大木はその6枚の絵を素材として、この交響的幻想《ヒロシマ》(のちに現在のタイトルに改題)を作曲した。
 それぞれの曲の内容は片山氏の解説にくわしいが、《ヒロシマ》は国外でも何度か紹介され、ソ連ではアルヴィド・ヤンソンス、アメリカではストコフスキーの指揮で演奏された。内面には言語に絶する悲劇的な感情が秘められているが、この交響曲は、わが国がひとり体験した原爆の惨禍によって生み出された希有の作品である。したがって、このディスクの発売は、非常に意義深いことといってよい。
 湯浅卓雄指揮新日本フィルの演奏は2曲ともに作品にふさわしい。《日本狂詩曲》は華麗なオーケストレーションによるが、きりりと引き締まったすばらしいアンサンブルである。種々の素材が絵巻物のように次々と登場するが、それらが有機的につながり、緊迫感にみちた音楽として表出されている。《ヒロシマ》は対照的に暗く、心に深く訴えかける音楽である。大木は自己の技巧と音楽のすべてをここに投入しており、それらが長大な曲を多彩に彩っている。原爆や放射能の雨の無機的な描写から、それによる犠牲者の悲痛な心情と恐怖感をリアルにあらわしている。聴き手に非常に強烈な印象をあたえる曲と演奏だが、とくに規模の大きい〈悲歌〉は感動的な終曲となる。これは作曲者の言葉どおりドラマティックであって、深い余韻を残して終わる。
 決して楽しみで聴ける作品ではないが、これは芸術のもつ深遠な力を改めて痛感させるに違いない。



音楽現代 '06 5月号 現代音楽(西 耕一)

 大木正夫といえば《人間を返せ》をはじめ《ベトナム》など、音楽で社会運動に参加した作曲家として知られている。今回はその代表作が世界初録音された。シリーズ久々の端正な録音で湯浅卓雄指揮の新日フィルもメリハリ良く熱演を聴かせる。《ヒロシマ》は〈序奏・幽霊・火・水・虹・少年少女・原始砂漠・悲歌〉の楽章で四十分に亘って原爆の恐ろしさを描く。オーケストラを最大限に使った暗澹たる悲惨音響の連続は、これでもかと聴く者に押し寄せる。希望の歌声は聴こえない。《日本狂詩曲》は対照的な音楽。木曾節のメロディーが屈託なく陽気に繰り返され高揚する。格式ばった西洋音楽というよりダンス音楽に近い通俗さが特筆されよう。大木の最も極端と思われる二作品を聴けるという意味で大変意義深いCD。原爆音楽に興味を持たれた方には、芥川也寸志《広島のオルフェ》、助川敏弥《終わりのない朝》などの取り組みを比較鑑賞されたい。




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